MENU

ベトナムの路上の草むらでバスの乗客たちと用を足した話

coco

本記事は、旅の面白い体験を気ままに書き綴っただけの役に立たないエッセイです。

広い心で読んでいただける方は、どうぞおすすみくださいませ。


ベトナムの避暑地ダラットから14時間、ベトナム中部に位置する第3の都市ダナンへ向かう長距離バス。

バスに乗り込んでから7時間後、とある路上に私たちは居た。

牛の群れが横切る中で、それぞれひっそりと茂みに隠れ男も女もパンツを下す。

若い欧米人が多かった満員のバスの乗客たちは、申し訳程度の草むらでベストポジションを探し用を足す。

そんなシュールすぎる光景に、笑いが込み上げてくる。



ベトナムの中部高原地域タイ・グエンに位置する避暑地ダラットから、近年開発が進んでいる中部のリゾート地ダナンまで長距離バスに乗って行くことにした。

所要時間は14時間。少々長めだが、ベトナムの長距離バスは座席が完全にリクライニングシートになっていて横になって寝られるので、快適な旅になるだろうと予想した。

日本でもよく夜行バスを使っていた私にとって、足を伸ばして横になって寝られるベトナムの長距離バスは天国である。

寝返りも打てるし、毛布まである。各座席の前後には壁があり、通路側はカーテンで仕切られている。

これはもう、移動式カプセルホテルだ。




ダラットのホテルまで迎えにきてくれた8人乗りの送迎車に乗って長距離バス乗り場まで向かう。

長距離バスに乗車するみんなが集まるまで30分くらい待っただろうか。隣の人と話したりお菓子を食べたりしながらのんびりと待った。

「トイレに行っといた方が良いかな。」

一瞬頭をよぎったものの、まぁいっかと行くことをやめた。

これが仇となってこれから2時間尿意と戦うことになるとは。




バスは窓側の席を予約した。ベトナムの長距離バスは3列シートになっていて、真ん中の座席も両側にカーテンが付いていてプライベート空間ではあるものの、カーテンを閉めると外の様子が全く見えない。

ベトナムの長距離バスに乗るときは決まって窓側の席を取るようにしていた。

のんびり外の景色でも見ながら音楽でも聞こうかと横になる。

バスが動き出してから10分ほどたった頃だろうか。

「あ、やばい。トイレ行きたい。」






バスが動き出してからまだ10分しか経っていない。休憩は何時間後だろうか。

体制を変えたりして見るものの気休めでしかなくて、もう外の景色を楽しむどころではない。

標高1500mの位置にあるダラットからの道はカーブが多い山道で、体が左右に揺れる揺れる。それが気を紛らわすのにちょうど良かった。

もうバスの運転手に行って止めてもらおうかとさえ思ったが、バスが走る道は山の中だ。店の一軒も見当たらない。

もうだめだ、諦めかけた時ようやくバスは休憩所に着いた。時刻は午後6時40分。

2時間半もよく耐えたものだ。

休憩所に着くと我先にとバスを降り、それでも走ってトイレに駆け込むのは恥ずかしさがあったので、素知らぬ顔を装いながら早足でトイレに向かった。

無事トイレに行くことができ、ようやく私の快適なバスの旅が始まった。





休憩所には大型のレストランが一軒あった。長距離バスの乗客のために作られたようなレストランでその全てはかなりのオーバープライスだった。ここしか店がないため、そして長旅なため、乗客たちに選択肢はないが、街中にあれば高級レストランの部類に入るような値段設定だった。

ベトナムのサンドイッチ、バインミーは20.000ドンが相場であるが、ここでは3倍以上の70.000ドン。


それでも買う人がいるのだから良い商売だ。

料理を注文し、調理され、食べ終えるほどの時間がたってバスはまだ動き出す。





時刻は午後11時。2回目の休憩がやってきた。夜食でも買おうかとバスを降りてみると、そこはただの路上だった。

トイレ休憩だということを察し、今回は絶対に行っておこうとトイレを探す。
探すといっても何もない場所なので探すほどでもないのだが、そのトイレが見当たらない。


いや、トイレらしきもの、正確には以前はトイレだったものがあるのはわかる。


しかしそれは完全な廃墟と化していて、電気が通っていないどころかドアも開かず、もはやトイレの役割を果たしていなかった。




それに気づいた他の乗客たちを見ていると、それぞれおもむろに人気のない場所へと消えていく。

一応しゃがめば腰が隠れるくらいの草が生えていて、躊躇いがちな足取りと共にゆっくりと人々は草陰に消えていった。

連れがいる人は誰かに見張りを頼み、一人旅の何人かの乗客はどうしたものかと立ち尽くしていた。

しかし私に選択肢はない。ここで用を足すしかない。トイレを我慢しながらあと何時間も過ごすよりずっとましだ。

実は外で用を足すことにはさほど抵抗のない私だ。片手で足りないくらいの数は外で用を足している。とはいえ、いつも一人だった。




誰かがいるシチュエーションにも抵抗はないが、なんだろうか、この目の前に広がる光景は。
満員だったバスの乗客たちが、大勢の乗客たちが、外で用を足している。

レイブでもなければ、大自然の中でもない。

ベトナムの車道脇の砂利道に生えた申し訳程度の草むらで。

そう思ったら笑いが込み上げてきて堪えるのに必死だった。

これはもう楽しんでこの光景の一部分になろうではないか。




どこからかやってきた牛の群れを横目に、皆に習って草むらに隠れた。

用を足し終わったみんなは、どこか清々しい顔にも見える。

お互い言葉を交わすことはなかったが、数分の間に生まれた一体感に包まれつつ、バスに乗り込んだ。





コメント

コメントする

目次